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クライオニクスの課題

 

 

・凍害保液の毒性について

 

クライオニクスにおいて「ガラス化凍結法」を用いる場合の最大の問題点、つまり「現行のクライオニクスにおける課題の中で最大のもの」は、急速冷却の過程の前段階で使用する「凍害保護液」の「毒性の問題」であると考えられます。

 

現在、ライオニクスで使用されている「凍害保護液」は、全量で6割近くの有機溶媒が含まれるため、強い毒性を有します。

基本的に有機溶媒には毒性があって、一部の「ペルフルオロカーボン」のような人工血液に使われる「特異的に毒性が低いもの」を除き、「多量に血中に入れることには致命的な問題がある」という認識で間違いありません。
クライオニクスは、「医師により死亡が確認された後に使用される技術」ではありますが、未来での蘇生を目標に設定している以上は、このような高濃度の有機溶媒を含む凍害保護液の使用は大いに問題があります。

 

氷晶の生成阻害のために使用される凍害保護液は、氷晶による凍結障害を上回る「不可逆的な変性」を発生させているのではないかという見方もできます。

 

インターネット上では、「解凍する技術がまだない」と評価されることもあるクライオニクスですが、実際には「凍結時の技術がまだ実用化段階にない」と捉えるのが妥当でしょう。

 

ところで、このように高濃度の有機溶媒を含む溶液は「タンパク質の高次構造を不可逆に変化」させたり、「細胞膜を溶解」させたりするのですが、それでもガラス化凍結法は「細胞の凍結保存法」としては確立しています。

それでは、なぜ「細胞」は凍結保存できるのに「人体」は凍結保存できないのかについては、次の「凍結対象のスケールに起因する問題」で説明します。

 

 

 

・凍結対象のスールに起因する問題

 

凍結保存する対象物としての「細胞」と「人体」の相違点ですが、これは当然のことですが「スケール(大きさ)」が全く違います。

 

「ガラス化凍結法」で凍結できる対象物の「スケール(大きさ)」には限界が存在していて、そのために「細胞」と「人体」では成否が分かれます。

 

これには理由が主に2つあり、まとめますと下記のようになります。

まず、1つ目の理由である「凍害保護液の接触時間に限界がある」ですが、これは前述のように凍害保護液には有機溶媒に起因する毒性が存在するので、凍結保存しようとする対象物と凍害保護液の接触時間には制限があります。

 

ガラス化(非晶質化)を行うには、液体窒素による急速冷却の過程に進む前に、凍害保護液に浸漬する必要がありますが、この浸漬時間が長すぎると細胞は死滅してしまいます。

 

凍害保護液の種類により毒性の強さは異なりますが、一般的に有機溶媒の総量が多いほど毒性が強くなる傾向があると考えて間違いありません。

 

例えば、ガラス化凍結法の一種である「簡易ガラス化法」で用いられる凍害保護液の「DAP213」は有機溶媒の濃度が特に高いので、細胞との接触が許容される時間は極めて短く「10~30秒以内」であるとされています。

 

クライオニクスで現在使用されている凍害保護液は、この「簡易ガラス化法」で用いられる「DAP213」よりも更に「有機溶媒の濃度が高い溶液」です。

 

細胞の場合は、瞬時に凍害保護液を浸透させて、次の急速冷却の過程に進むことが可能ですが、人体を保管するクライオニクスの場合は、瞬間的に血管内を凍害保護液で置換することなど不可能ですし、迅速に次の急速冷却の過程に進むのも困難ですので、当然に凍害保護液の毒性の問題は回避できなくなり深刻になります。

 

 

なぜ、人体の血管内に流し入れる溶液でありながら、このように「有機溶媒の濃度が特に高濃度の溶液」を使用するのかというと、これには2つ目の理由である「ガラス化には急速冷却が必要である」が関係してきます。

 

人体の場合は細胞と比較して体積が大きすぎるので、ガラス化に必要な冷却速度が十分に得られません。

 

しかし、凍害保護液に含まれる有機溶媒の濃度を高濃度にしていくとガラス化に必要とされる冷却速度が緩和されるので、クライオニクスでは有機溶媒に毒性があるのを承知の上で高濃度の有機溶媒を含む凍害保護液が使用されています。

 

もちろん、有機溶媒の濃度を高濃度にするほど毒性の問題は深刻になりますので、冷却速度が得られないのを補うべく有機溶媒の濃度を高くし過ぎると、ガラス化は達成されるけれども「生体」としてガラス化したことにはならなくなります。

このように、「ガラス化凍結法」において凍結する対象物の「スケール(大きさ)」は、極めて重要ということになります。

 

 

では、「現在のガラス化凍結法の技術水準」をもってして、現実的には「どこまで人体を生体として凍結保存することが可能か」について一覧にすると、下記のようになります。

このように現在のクライオニクスは、ガラス化凍結法の技術的進展が「人体を生体として凍結保存する」という目標に追いついていない段階で、時期尚早にも人体に適用してしまっていることになります。

 

これまで長い間、クライオニクスが科学的には高い評価を得られず、また低温生物学の専門家の多くがクライオニクスに対して肯定的ではなかったのは、上記のような理由によります。

 

では、将来的なクライオニクス実用化の可能性についても悲観的に考えなくてはいけないのかというと、必ずしもそうではありません。例えば、冷却速度が問題であるならば、「人体を一瞬で凍結することが可能な技術」が開発されれば、問題は解決します。

 

 

ここまでくれば、もう皆様はお気付きですね!!

もちろん、ディオ・ブランドー氏の「気化冷凍法」の話は冗談です(サンダー・クロス・スプリットアタック!!)。

 

 

話をもとに戻しまして、「気化冷凍法」は無理であっても「冷凍機器の技術革新による冷却速度の改善」などは、クライオニクスの実用化にプラスに寄与するはずです。

 

また、『まんがでわかる クライオニクス論』では、冷却速度の改善という方向性ではなく、「ある一部の生物が持つ特性」の利用により、クライオニクスの実用化を試みる方法について解説しています。

 

これについては、かなり長くなりますので、ご興味がある方は、ぜひ『まんがでわかる クライオニクス論』で続きを確認してください!!

 

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